2A3 ロフチン・ホワイトアンプ復活記 ▲factory top


1974年 高校2年の夏

小学生の頃から、ラジオやアンプの部品は、 岡山市の繁華街にある松森無線という店に買いに行っていました。 2A3アンプの部品を買った時の納品伝票が、 製作の参考にした電波技術誌(1973年2月号)に挟んだままになっていました。 1974年(昭和49年)の夏休みが始まると、すぐに部品を買いに行ったようです。

当時の日記には「トランス4個の重さは10kを越え、 自転車の前のカゴに入れて帰るのは危ないからと、 松森の人が親切にも家まで届けてくれた」とあります。 ちなみに真空管2A3は通販で購入しました。

製作後46年を経たアンプ

岡山から東京へ輸送する際の衝撃でシャーシが歪んでいます。 普通に見ればただのジャンクですが、 私にはこれが鳴っていた高校時代が思い出されます。 その頃来日したカール・ベームとウィーン・フィルのNHKホールでのブラームスや、 毎日聴いていたプログレッシブ・ロック、イエスのサウンドが聴こえてきます。

ほぼ40年ぶりに通電すると しばらくしてシャーシ上のブロック電解コンデンサの一つが破裂しました。 それを修理した後は良い音で鳴っていますが、 このままではやはり怖く、使うのなら作り直す必要があります。

使用部品を決める 2020 Mar 10-13

トランス4点、真空管3点、ハムバランサー1点は掃除をして再利用します。 大物部品は流用ということですね。 それ以外の部品は新規調達します。 今現在コロナ禍で秋葉原に買いに行けないので全て通販で揃えます。 下記以外の一般的な整流ダイオード、コンデンサ、抵抗等は適当に通販に割り振ります。

今となっては入手困難な、特に出力トランス等再利用  おぉ、落書き発見!この下手くそな文字は、、(笑

ブロックコンデンサ
真空管やトランスは半世紀を経っても変わりませんが、コンデンサはすっかり小型化され様変わりです。 昔は電源のコンデンサは通常、ブロック型の大きなものでしたが、 今では普通のチューブラ型サイズに収まってしまいます。 小型化は世の中的には良いことなのでしょうが、 真空管アンプのシャーシ上にやはりブロック型のコンデンサの姿が欲しいですね。 現在ではブロック型は以下くらいしか見当たりません。

ドイツ F&T(共立エレショップ) ただし、これでは文字が逆さまになってしまいNG
スロバキア JJ(アムトランス)
or スロバキア JJ(オーディオウインズ)
ついでながら、高耐圧チューブラ型コンデンサは、 ここや ここ

主要部品
RCA入力端子(アムトランス)
SP出力端子(アムトランス)
真空管ソケット2A3(オーディオウインズ)
真空管ソケット12AX7A(アムトランス) 取付穴不明 21Φ 29pitch?
大電力カソード抵抗 1.5k セメント抵抗(千石電商) 3本直列使い
or 大電力カソード抵抗 1.5k メタルクラッド抵抗(RSコンポーネンツ)
or 大電力カソード抵抗 1.5k(マルツ)
電源SW(千石電商)
PLランプ(秋月電子)
ヒューズホルダー(秋月電子)
ヒューズ(秋月電子)
メガネACコネクタ(秋月電子)
ACコード(秋月電子)
B電圧用リレー(秋月電子)

小物部品
小基板(秋月電子)
中型ラグ端子、5Pまで(秋月電子)
中型ラグ端子、6Pあり(オーディオウインズ)
ゴムブッシュ(秋月電子)
結束バンド(千石電商)
黒ネジ M3(千石電商) ビス8mm 平ワッシャ ワッシャ ナット
ネジ M3(千石電商) ビス10mm 平ワッシャ ワッシャ ナット

シャーシ図面を起こす 2020 Apr 7 - 23

シャーシはタカチの SRDSL-9HG(シャンパンゴールド) を使うことにしました。 シャーシ加工は普段は自分で行いますが、今回はアルミ厚が2mmあり大変そうなので、 加工もタカチに依頼することにしました。 加工の仕様は、 電子カタログ のChapter14−1~14 (P.964辺り) を参考にします。

タカチのサイトには「カスタム品見積依頼フォーム」があり、 それによると個人からの依頼も受け付けているように見えますが、 実際は個人で申し込むと、代理店を通すように言われました。 今回は共立エレショップのお世話になりました。

さて、普段ならシャーシを片手に、 図面を見たり現物部品を合わせたりしながら加工していましたが、 加工を依頼するとなると、 (当たり前ながら)依頼する時点で全ての加工寸法が決まっている必要があります。 そんな訳で、今回は部品選定が完全に終わってからシャーシの考察に入りました。

加工図面は手描きでも良いそうですが、 CADデータで出すと若干割引きになるのと勉強を兼ねデータで出すことにしました。 まずCADツール選びから。無料かつネット上に情報が多いことがポイントです。

ぐぐると以下の2つがありました。
AR_CAD
JW_CAD
う~む、、 数時間使ってみましたが、なじめません。 対象毎に操作が異なり、すなわち覚える事が多過ぎ、ギブアップです。 ツールの設計思想について行けないまま終わりました。

私は現役時代に汎用の Graphic Editor の開発をしたことがあります。 6万行程のJavaコードを書きました。 そこでは編集対象に関係なく操作は全て共通で、 「編集対象=オブジェクトを選択し、その属性=プロパティを変更する」という、 オブジェクトとプロパティが直交した操作構造で、 ツールとしての編集操作はそれでおしまいです。 もちろんオブジェクトやプロパティは、それぞれ異なる要素を持っていますが、 そこに必要なのは自分が扱う対象への理解であり、ツールへの理解ではありません。 自分の興味の対象には好奇心を注げますが、 ツールの使い方に苦労するのはナンセンスです。 ちなみに私の Graphic Editor でCAD編集を行うことも可能ですが、 最終的に業界標準フォーマット(拡張子 .dxf, .dwg)で出力しなければ意味がなく、 そのフォーマットを調べて実装する気力がないので止めました(笑。 回路図の編集くらいはその内やりたいですね。

さて、間口を広げ有料ツール。 以下は30日間無料でフル機能が使えますが、 業務向けでしょうか、趣味で使うには高額な感じです。 数年に1度のシャーシ加工の依頼時に1ヶ月のサブスクなら使えそうかな。。
AutoCAD LT
幸いこのツールにはオブジェクトとプロパティの直行操作の概念があり、 直感的に使え、挫折することなく初志貫徹することが出来ました。

シャーシのCADデータ図面、 クリックで原寸キャプチャを表示します

ところで Autodesk のサイトにいろいろなフォーマットのビュアーがあります。
Autodesk Viewer

このシャーシだけの定価は12000円ですが、 今回の穴あけ加工込みだと合計40860円でした。 また、部品図面が見つからなかったJJブロックコンデンサとハムバランサーは、 寸法指定を間違えてしまい、出来上がったシャーシを手加工する羽目になりました。

30秒B電源ディレイ部分 2020 Mar 20

2A3は直熱管でフィラメントのカソードはすぐ稼働しますが、 12AX7Aは傍熱管でヒーターのカソードが稼働するまでに、 より長い時間を要します。 普通のアンプでは問題にはなりませんが、 両真空管が直結されたロフチンホワイトアンプでは、 傍熱管が稼働するまで2A3にバイアスがかからず過大電流が流れるため、 しばらくB電圧の印加を待つ必要があります。 先代ではそれを別SWにして私が見計らってONにしていましたが、 今回は30秒ディレイ回路を入れることにしました。

こんな簡単な回路にジャンパー線が3本も(苦笑

アンプ本体 2020 Jun 19 - 21

タカチから届いた穴あけ加工済みシャーシ 実際の配線を構想してから部品を取り付ける
電源電圧を下げるためトランスのタップをほどいて巻き線を取り出す、 白い保護チューブの部分
電源部分の配線が完了 回路が簡単なので全体の配線もすぐに完了
目視確認の後、電源を入れ電圧を確認し、配線を結束バンドで固定して完了、 クリックで拡大表示します
そのまま1発で音出し完成です
ほぼ半世紀前に購入した2A3が復活

放熱対策が必要でした 2020 Aug 10 追記

完成後、聴いていると、1時間ちょっと経ったころ急に音が出なくなりました。 シャーシを開け調べてみると、 3本のセメント抵抗の内の一つの半田が溶け落ちて浮いていました。 これは2A3のカソード抵抗で、 24Wの熱を出すロフチンホワイトアンプの泣き所です。 ここで消費される電力が大きいことは分かっていたので、 20Wのセメント抵抗を3つ使い60W体制にしたのですが、 この様に密に配置すると熱の逃げ場がなく高温になる事を学びました。 半田が溶けたのだから200度位になったことになります。

写真右側のセメント抵抗が少し傾いている 写真右上部分の半田が溶けて浮いていた

直ぐに抜本対応は出来なくても、このアンプを聴いていたいので、 応急対策としてシャーシ底板のスリットに冷却ファンを取り付け、 しばらくの間しのぎました。 超静音タイプの ainex CFZ-12015SB の動作電圧を半分以下に下げると、 リスニングポジションからはファンの音は聞こえなくなります。 わずかな空気の流れとはいえ冷却効果はあるようです。

ファンを低速で回転させる

さて、カソード抵抗の発熱が大きいのは先代から分かっていたので、 セメント抵抗でうまくいかなかった場合を考え、 大電力用30Wメタルクラッド抵抗も合わせて購入していました。 局所的な放熱対策としては、シャーシ内にL型アルミの放熱板を立て、 そこにメタルクラッド抵抗を取り付けることを考えていました。

追加したL型アルミ放熱板とメタルクラッド抵抗

また、そもそもシャーシが熱くて触れないのでは困るので、 何か熱を外に逃がす対策が必要です。 冷却ファンはその騒音からオーディオでは使われることはなく、 あくまで応急対策でした。 しかし、使ってみると効果的で、 12V用のファンを2.5Vを倍電圧整流した4.6Vで回すと静かです。 そして何とかシャーシに触っていられます。 そんなわけで冷却ファンも恒久対策となってしまいました。

気のせいか、排気で回すより吸気で回す方が若干温度が下がるような。 空気の流れがシャーシ全体に回るためでしょうか。 この熱問題が最初から分かっていれば、 放熱板側の側面や天板に通風孔を開けたかも知れませんが時既に遅しです。

変更点
  • 2A3のカソード抵抗を放熱板に取り付けたメタルクラッド抵抗に変更
  • ファン用のDC電源を追加
  • 電源電圧が数%高かったので電源にシリーズに30Ωを入れ定格電圧とした
  • 意図が分からず外していた電源とカソード間の電解コンデンサを追加
  • B電圧リレーのプリチャージ抵抗はハム音を伴うので結局取り去った
  • 12AX7Aのカソード抵抗を音質用に変更
ずいぶん手が入り、シャーシ内部は以下のようになりました。

対策後のシャーシ内部、クリックで拡大表示します